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宗教芸人の「えらいてんちょう」です。今回はイスラム地域研究界隈では常識なのに、一般にはあまり知られていないと思われるイスラム国の形態について書きます。
【イスラム国は終わった?】
三年前に「建国」されたイスラム国は、かなり厳しい戦闘を強いられているようです。上記の記事内で、アバーディ氏は声明で「我々は、最後の一人を殺すか拘束するまで、戦い続ける」としています。イスラム国は、無事終わりに向かっていき、世界には平和が訪れるのでしょうか。
【国家の終わりとは、通常の<危険国家>とは異なるイスラム国の戦闘】
国家は、領土・国民・主権からなるというのが一般的見解であり、領土が狭まっているイスラム国は追い詰められており、いずれ「国家」としてのイスラム国が消滅することは疑いようはないでしょう。しかし、イスラム国の恐ろしさ、怖さは「国家でありながら国家でない」という点にあります。
どういうことか。たとえば、欧州で頻発するいわゆる「イスラム国によるテロ」は、一般的にイメージされるような、イスラム国で訓練を受けた兵士が欧州へ行き、そこでテロを起こすという形ではなく、イスラム国の思想に共鳴したその国で生まれ育ったムスリムが、単独で事件を起こすという形なのです。これを、池内恵東大准教授は「グローバル・ジハード運動」と呼んでいます。
イスラム国の言い分を見ると、いびつながら共感を覚えてしまう主張が少なくありません。たとえば、ヨルダン人パイロットをイスラム国が焼殺した事件を覚えているでしょうか。イスラム国の主張によれば、ヨルダンによる爆撃でイスラム国の領域内で無数の罪のない市民が、女子供に至るまで殺された。これはその報復である、というわけです。
あるいは、日本人2人が殺害された事件も記憶に新しいところです。これは、アメリカ主導のイスラム国を爆撃する有志連合に日本が200億円余の資金援助をしたことを受けて、日本人2人の命に200億円の価値をつけ、罪のない市民を殺す資金援助をやめろ、そうでなければこの2人を殺害する、というものでした。理屈が通っています。共感を覚えてしまいます。
【インターネット時代のテロリズム】
一般に、対立しているものには、双方に言い分があります。アメリカや有志連合にも言い分があるのと同様に、イスラム国の側にも言い分があります。
しばらく前、インターネットで個人が動画や文章を発表するのにハードルがあった時代には、マスコミを使って「テロ国家」「悪の枢軸」と呼んで、自分たちを正義としていれば事足りた「対テロ戦争」も、ここにきて大きな変化を見せているわけです。
イスラム国の言い分、やられたからやり返しているだけ、イスラム教徒は目を覚ませ、といったメッセージを発します。時には動画として、時には音声として、時には文章で。それは、どこのマスコミを経由することなく、生の情報として、先進国の個人個人に対して届けられます。規制をかけるにも限界があります。特に先進国に生まれたムスリムの知識人に、時に深くつきささるようです。
英国をはじめ、欧州で続く事件は、こうしたイスラム国のメッセージに触発された、欧州生まれ欧州育ちの青年によって、起こされているわけです。ですから「イスラム国」は、あるいは「イスラム国」的なテロは、この世に不正がある限り・・・それはつまり、この世が終わるまで・・・続くでしょう。イスラム国のすでに発されたメッセージはネットの海に残り続け、またイスラム国「最後の一人」が殺されたとしても、欧州やその他の地域から、一人ずつ「イスラム国」が復活するのです。
【日本におけるテロの危険性】
有志連合への資金提供などにかこつけて、日本でテロが起こるのでは、という不安がささやかれますが、これはほぼありえないといえるでしょう。イスラム国は、アラビア語・英語他で発信をしており、日本語では発信をしていません。これは非常に大きな事態です。
イスラム国の主張に賛同する人間は、イスラム国の主張を見た人間のうち10人に1人程度。さらに行動に移すとなればそのハードルは跳ね上がり、賛同したうちの100万人に1人が「テロ」に及べばイスラム国的には上出来というところではないでしょうか。翻って、日本でそもそもイスラム国の主張を知っているのは何人に1人でしょう。100人に一人もいればいいほうでしょうか。特にボーンムスリムがほとんどいない日本にあっては、とても行動にうつす人間が出るとは思えません。オリンピックのときに少し注意すれば、日本にテロの惨禍が及ぶことはないと考えられます。
【まとめ:イスラム国をたたいても、新たにイスラム国が生まれるだけだ】
以上のように、イスラム国は国としての形をとっていながら、国をこえて、雲のように、靄のように、人の心に入り込むものです。ですから、最後の1人を殺すまで続けるといった戦闘は、もはや難しいのではないでしょうか。どうすればいいかはわかりません。どうすればいいかがわかればノーベル平和賞ものでしょう。戦争は続く、どこまでも、そういうことなのかもしれません。
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