Youtube時代の知的財産権―将棋Youtuber 対 新聞社抗争の経済学的分析

【この記事は約5分で読めます。】


 大学で数理マルクス経済学という分野を研究しておりました「えらいてんちょう」と申します。まずはこちらをご覧ください。



  2017.6.17に行われた 朝日杯 藤井四段対藤岡アマの対局の棋譜並べを行っていた将棋系Youtuber クロノさんの生放送が「権利侵害」と指摘され、中止となった、という出来事がありました。数日前に、将棋系Youtuber アユムさんが、自主的に、とはいうもののプロの棋譜並べ動画を削除しており、奨励会のつながりから、何かしらのアドヴァイスを受けたことが想像されます。本件は特に「中継性」が問題となった場面ですが、法的な観点はこちらの将棋の棋譜には著作権は存在するのか?という記事に譲るとしまして「Youtube時代」=「万人発信者時代」の知的財産権のあり方について、経済学の観点から読み解いていきます。

 【有名配信者の放送を差し止めたところで、配信することは止められない】

 事後の棋譜並べではありますが、徹底解説!将棋の定跡というチャンネルが本対局の棋譜をほどなくあげたり、久保大介というチャンネルが、昨日の注目対局である羽生―斉藤戦をライブ配信しております。アニメの違法アップロードサイトなどを見てもわかるとおり、需要があるところには供給が発生するというのは、経済学の根本を支えるまさに真理であり、これを全面的に違法である、権利侵害であると断ずる法体系は長持ちしないでしょう。
 マルクスは「下部構造(=経済)が上部構造(法律・倫理)を規定する」と述べております。すなわち、経済の原理が要求する事態が、法になり、倫理になるという考え方です。もちろん、新たな発明品を生み出したり、新たな著作物を生み出した人に対して、適正な額の成果が支払われることは、新しい発明品・著作物を生み出す原動力となります。これが、知的財産権の経済学的根拠になります。しかし、現在のように供給が容易な現状では、どのような変化を見せるでしょうか。

 【Googleの革命的取組・・・Content IDシステムについて】

 Googleは、違法アップロードされた動画を検知するContent IDというシステムを採用しております。検知された動画を真の権利者に伝え、削除のほか、真の権利者でない動画の広告収益を真の権利者に配分するという選択を、権利者はすることができ、多くの権利者がこの制度を活用しています。このテクノロジーを利用すれば、ユーチューブでアニメが見られるというユーザーのメリット、需要はそのままに、権利者の利益を適正にはかることができます。
 たしかに棋譜は、スポンサーたる新聞社他が資金をだし、棋士の対局料を支払うことで出来上がっております。その投資は非常に大きい額であるし、その棋譜にいわばタダ乗りをして小さく広告収入を得ているYoutuberに対して物申したくなる気持ちも理解できます。しかし、ユーザーの多くは、無料でかつリアルタイムで声付きの解説をしてくれるYoutuberを欲しており、ファンの総体が潜在的に将棋界を支えている以上、単に解説動画を知的財産権を根拠につぶすことは、ユーザーの需要をつぶし、ひいては将棋界全体ー他の分野でいっても産業全体ーにマイナスの効果しかもたらしません。このマイナスの効果を、経済学では厚生の損失と呼びます。

 【まとめ:新聞社はYoutuberとライセンス契約を結ぶべし】

 棋譜並べ動画は、主催の知的財産権をもとにしているとはいえ、さらに独自の価値を付加して動画になっています。単なる違法アップロードとは違い、さらなる価値を加えて動画を出しており、Youtuberもみな、価値を付加し、収益をあげることをモチベーションにして、良質な動画をつくり、ひいてはユーザーの利益に資しております。
 Googleの技術革新には驚くばかりですが、Content IDシステムが、動画収益のうち何割がYoutuberの付加分かを計算するには、いまだしばらく時間がかかるでしょう。よって、日本将棋連盟およびタイトル戦ほかの主催社は、Youtuberとライセンス契約を結び、広告収入の一部を受け取る代わりに棋譜の使用を許諾すべきです。それをせずに、人気の動画を「権利侵害」と消していけば、無名のYoutuberがその役割を代わり、またそのたびに権利侵害を主張し、それを繰り返すいたちごっこになるだけで、誰も幸せになりません。
 藤井四段の連勝に湧く将棋界で、そのブームを真の人気に出来るかどうかは、新しい時代の知的財産権のあり方に対して、各位が適切に対応できるかどうかにかかっているといっても過言ではないでしょう。
 クロノ氏のチャンネル登録者数は3万人程度であり、これからドンドン伸びていきます。大きくなることこそあれ、少なくなることはありません。メディアの分散化は止められません。近く、新聞社といったマスコミは棋戦を主催できなくなる、ないしは規模が小さくなることは目に見えており、その後の棋界を支えるのは間違いなく、動画共有サイトおよびそのユーザーです。ドワンゴが新設した叡王戦は、まさにその一端を示しております。関係者各位は、対応を誤らないよう、慎重に行動していただきたい。将棋プレミアムにも課金しており、朝日新聞の購読者でもあり、Youtubeの解説動画を見るのも好きな、1ファンの願いでした。長文を読んでいただきありがとうございました。


木戸銭をください。こちらから買い物をすると筆者の収入になります。
欲しいものリストはこちらです。

コメント